2025年現在、「働きたくない」×「生活」というテーマは、すでに語り尽くされてしまった、というのが私の見解である。これまでの「(なるべく)働かないで生きる論」の系譜を簡単に紹介しよう。
まず、現代日本における「(なるべく)働かないで生きる」系のノウハウ本の元祖として挙げられるのは、神長恒一とペペ長谷川による『だめ連の働かないで生きるには⁉』(2000年)であるだろう。「だめ連」とは、「働かない(働けない)」「家族を持たない(持てない)」といった、世間的に「だめ」とされる人々が集まり、オルタナティブな生き方を模索するグループ/ムーブメントである。本書では「無職」「フリーター」「実家暮らし」「シェアハウス」「居候」「ヒモ」「小さな仕事を作る」「貯金生活」「生活保護」など、なるべく働かずに生きるための実践的なノウハウがまとめられており、この時点でほとんどの方法が議論し尽くされていたと言ってもよい。
次に、ゼロ年代のインターネット普及に伴って、ネットを活用したニート生活のノウハウを体系化したのが、phaによる『ニートの歩き方』(2012年)である。(元)日本一有名なニートでお馴染みであるphaは、インターネットによって「① 人とのつながり」「② 暇つぶしにやること」「③ 最低限のお金」が得られることを説いた。本書では、ネットやシェアハウスを基盤にした相互扶助的なコミュニティの在り方が描かれており、2025年の現在においても、そのノウハウの恩恵にあずかっているニートは多いはずだ。
続いて、テン年代中頃には、大原扁理が『20代で隠居 週休5日の快適生活』(2015年)を刊行し、「都市型隠居」というスタイルを提唱した。これはアルバイトで月7〜8万円を稼ぎ、都市部の安価なアパートで質素に暮らすというライフスタイルである。だめ連やphaの提唱する生活は、コミュニティやシェアハウスへの参加など、他者との関わりを前提とする部分があったが、大原の「都市型隠居」は、むしろ人間関係を最小化したい個人主義者や、将来的に投資で早期リタイアを目指す層にも共感を呼び、大きな反響を得た。
さらに、20年代に突入すると、石井あらたによる『「山奥ニート」やってます。』(2020年)が出版される。山奥ニートとは、限界集落に移住し、最低限の生活費を得ながら、シェアハウスで共同生活を営むニートたちのことである。このように紹介すると、かつてのヒッピーのようなイメージを連想させるが、山奥ニートは文明の利器を否定せず、ネットや電化製品を活用する点が特徴的だ。活動自体は2014年頃から続けられてきたが、出版を契機にテレビメディア等でも取り上げられ、各所で山奥ニートブームが巻き起こった。全盛期には、日本全国に山奥ニートを参考にしたシェアハウスが10か所以上設立されたほどである。
以上のように振り返ってみれば、「働きたくない」×「生活」というテーマは、すでに偉大な先駆者たちによって語り尽くされていることが分かる。都市部でなるべく働かずに暮らしたいならだめ連やphaの生き方を、他人と距離を取りたいなら大原の都市型隠居を、地方でのんびり暮らしたいなら山奥ニートを参考にすればよい。
このような現在において、新しいニート生活のモデルや画期的なアイデアを提示することは難しい。せめて私にできるのは、極めて個人的な、なるべく働かない生活の実情をありのままに記録することだけである。
あるばいと【アルバイト】
正社員として就職はできないが、アルバイトならなんとか働けるというニートは多い。私も2018年に無内定で大学を卒業してからニートとフリーターを往復する生活を送っている。
いそうろう【居候】
またの名をヒモ。実は私は一時期、彼女の家に転がり込んでヒモ生活をしていたことがある。ヒモ生活というと、理想の無職生活であるようだが、実体はそうでもなく、煮え切らないような生活が続く。特に、生活資金を相手に依存してしまうので、知らず知らずのうちにパワーバランスの不均衡が生まれてしまい、対等な付き合いでなくなっていく。専業主婦がつらいという声が上がるのにも、こういった背景があるのだろう。
いんたーねっと【インターネット】
ニートといえばインターネット。通信費を払うだけで膨大な量の娯楽を享受することができる。とはいえ、無限に流れてくるツイッターのつぶやきをひたすらスクロールし続ける廃人状態になってしまうことも少なくない。誰が言ったかインターネットはサーフィンである。波に呑まれるな。波を乗りこなせ。
うつびょう【鬱病】
鬱病だからニートになってしまうのか、ニートだから鬱病になってしまうのかは分からないが、両者の関係は根深い。厚生労働省の調査によれば、ニート状態の若者の約半数が「精神科または心療内科での治療を受けた」と答えている。私自身も鬱病と診断された経験があるが、発症するとただ布団に横たわる肉塊と化してしまい、どうしようもない。
おどり【踊り】
無職の「無」という漢字は「舞っている人」の象形文字らしい。博識の安眠計画さんに教えてもらった。そういうわけで無職は積極的に踊るべきである。これはネタではなく、私は本当によく家で踊っている。何を踊っているのか自分でもよく分からないが、とにかく体を動かすと気分がよい。私が掲げる標語として「働くから動くの時代へ」がある。
おなにー【オナニー】
ニートが無料で快楽を得る方法として、手っ取り早いのがオナニーである。世の中のニート本や隠居本には「散歩をしてセロトニンを出そう」などと気取って書いてあることが多いが、ちゃんと「オナニーをしてドーパミンを出そう」まで書いておけと言いたくなる。私の場合、ひどいときは「オナニーする→疲れて寝る」を3回ほど繰り返していたら1日が終わっていたこともある。小人閑居して不善をなす。
ぎたー【ギター】
消費的な娯楽は金がかかるが、創造的な娯楽は機材さえ揃えてしまえば、自分次第で末永く楽しむことができる。ギターはその代表例の1つである。とはいえ、大抵の場合、1人で黙々と練習しても長続きはしない。本当にギターを続けたいなら、バンドを組むべきである。ちなみに、ニートマガジンのDiscord内で「楽器できる人いますか?」という話題になったとき、なぜかベースだけ4人出てきて、ギャグマンガ日和みたいになってしまった。
きんとれ【筋トレ】
一時期、虚弱体質と鬱病を改善するために筋トレをしまくっていた時期がある。筋肉はある程度付いたものの、筋トレをした分だけ筋肉痛のだるさがひどく、結局ベッドで寝込んでいるのは変わらなかった。
くえんさん【クエン酸】
身体がだるくて仕方ないとき、あるいは精神がぬかるんでしまったとき、私は気づけ薬代わりにクエン酸の粉をスプーンで直食いしている。本当は激すっぱい系のグミを買いたいのだが、高いので代わりにクエン酸を買っている。500円で500g も手に入る。
くるっぽー【狂歩】
ひたすら狂ったように歩くこと。別名:限界ウォーキング。日中かけて、あるいは徹夜で20~30㎞ほど歩く。例えば、私は横浜から江ノ島まで1人で歩いたことがある。
けんこうろうどうたいそう【健康労働体操】
健康のために肉体労働のバイトをすること。健康労働体操に参加するだけで月に数万のベーシックインカムを貰うことができる。
こくみんねんきん【国民年金】
毎月17000円も徴収してくるニートの命を刈り取る支払い。滞納する前に免除の申請を行おう。そもそも、65歳まで生き延びることのできるニートが何人いるのだろうか……?
こんびに【コンビニ】
夏場の散歩の休憩所、あるいは緊急ウ〇コスポット。私は基本的にコンビニで買い物しないし、食品ロスや大量廃棄の温床だと考えているのだが、無くなってしまったらそれはそれで困るという複雑な心境である。
さうな【サウナ】
サウナは無職のメンタルケアに非常に有効である。「サウナ→水風呂→外気浴」でととのおう。私は最低でも2週間に1回は銭湯やサウナに通うようにしている。最近はサウナが流行しすぎて、「サウナとか寿命を縮めるだけなんだよな……w」という冷笑的逆張りが頻出しているが、私はサウナが原因で死んでも別にいいと思っている。サウナ殉教。
さぶかる【サブカル】
気付いている人はとっくに気づいているかもしれないが、現代のニート界隈はサブカル・バーリトゥード(なんでもあり)と化している。サブカルで食っていく。
さんぽ【散歩】
時間を持て余し、使える金銭も少なく、健康を損ねがちなニートにとって、基本となる行動が散歩である。健康の維持、脳の活性化、ストレス緩和、快眠など、様々なポジティブな効果がある。また、瞑想や思索にも応用できる。当たり前のことかもしれないが、肉体と精神は連動しているのだ。何もせず部屋に引きこもり、布団に包まってスマホを眺めていると、精神だけが先鋭化し、おかしくなってしまいそうになる。そういうときは、とにかく歩く。外の空気を吸い、日光を浴びる。すると肉体的な感覚が優位になり、精神が安定していくのを実感できるだろう。
じすい【自炊】
外食ばかりしていたらお金がかかるのでニートは基本的に自炊である。「まず炊より始めよ」という私の名言もあるぐらいだ。ちなみに外食する金は無いが美味しいものは食べたいという欲求が高じた結果、私の自炊スキルは大幅に上昇してしまった。下手な外食よりMY自炊の方がうまい。
しっぴつ【執筆】
文章を書くニートは多い。私も暇つぶしに文章を書いていたら、こんな雑誌を刊行するまでに至ってしまった。頭の中身を書き出すとスッキリするし、重大に思える悩みも客観的に文章として読むとそうでもなかったりする。あとは、文章を書くことによってネットを通じた友人が増えるのも嬉しい。
じろう【二郎】
ニンニクアブラマシマシでお馴染みのラーメン二郎。食べると腹は壊れ、肌は荒れるが、自傷行為的にたまに食いたくなる。ノアの洪水のように腸内フローラを押し流した後、更地になった腸内にビオフェルミンを送り込むまでが生命のサイクルである。
すいこうさいばい【水耕栽培】
部屋の中に自然があると心地よい。私は大葉とバジルを育てている。この2種類は生命力が強く、何にでも使えるのでオススメだ。和食系には大葉、洋食系にはバジルを使うとよい。
すーぱーせんとう【スーパー銭湯】
ニートたちのオアシス。平日なら1200円程度で1日中滞在することができる。ちなみに、読みたい漫画があるときはネットカフェに行くより、スーパー銭湯で読破した方がおトクである。
すぱいすかれー【スパイスカレー】
クミン、コリアンダー、ターメリックなどのスパイスから作るカレー。薬膳カレーとも呼ばれるように、食べれば不思議と元気が出る。材料費も安いので、ニートはぜひスパイスカレーを作るべし。
せるふかっと【セルフカット】
金がなくコミュニケーションも苦手なニートはセルフカットに落ち着くことが多い。アウトローのヘアスタイルといえば、スキンヘッド(僧侶)かロン毛(ヒッピー)であるが、私はその中間をとって、いつもツーブロマッシュに刈り上げている。セルフカットに限った話ではないが、ニートを継続的にやっていくならば、DIY精神が重要だ。
たこす【タコス】
タコスを食べると元気が出る。私は定期的にタコスパーティーを行っている。トルティーヤ、タコスミート、ミックスチーズ、レタス、サルサソース、ワカモレ、パクチーを用意しよう。生パクチーが苦手な友人がいたのだが、一緒にタコスを食べたら「あらゆるものに意味がある」ことが理解ったらしい。
たまがわ【多摩川】
心の故郷。私は実家にいるのが――正確に言えば両親と同じ空間にいるのが――苦痛すぎたため、よく家を飛び出して徒歩圏内の多摩川でぼーっと川を眺めていた。深夜の河川敷でキャスターの5ミリを吸っているときだけが私の時間であった。
ちゃーはん【チャーハン】
ニートの基本料理の1つ。私はマヨネーズを白米に絡めてパラパラにする派である。得意なのはカニカマチャーハン。
ちゅうやぎゃくてん【昼夜逆転】
ニートは昼夜逆転しがちである。もはや昼夜逆転が基本になり、さらに夜昼逆転するまでがデフォである。しかし、この昼夜/夜昼逆転を繰り返し続けていると、一体何が現実なのか分からなくなってきて、意識が朦朧としてくる。あまり説教くさいことは言いたくないが、昼夜逆転生活を思う存分楽しんだのなら、最終的には生活リズムを正常に整えた方がいい。
つり【釣り】
狩猟採集の手段として王道であるが、普通に釣り具を買うとめちゃくちゃ金がかかる。そのため、ニートたちは基本的にダイソー釣り具だけを使用するという縛りプレイを強制されている。ちなみに、私が好きなのはルアーをぶん投げるライトショアジギングである。シーバスやイナダを釣りたい。
とうし【投資】
投資によって「働きたくない」を実現しようとする人間も多い。むしろ王道なのかもしれない。私も株やビットコインを買ってみたことがあるが、価格の上下にそわそわして日常的なストレスが続くのでやめた。また、インデックス投資で安定した収益を得ているのに、自由人や世捨て人、無頼漢を気取る無職がたまにいるが、個人的にはダサいのでやめた方がいいと思う。赤木しげるがNISA枠でS&P500を買いますか?
としょかん【図書館】
空調が効いた部屋で大量の本を無料で読める最高の施設。私はよく図書館に〝出勤〟していた。ニートならば一度は哲学書コーナーと宗教書コーナーを反復横跳びするべきである。
どかぐい【ドカ食い】
抑鬱感や虚無感を吹き飛ばすため、自傷的にドカ食いをしたくなることがある。私はよく駄菓子をドカ食いしていた。おかしのまちおかで「蒲焼さん太郎」の大袋(30枚入り)を買い、ネットのどうでもいい動画を眺めながら全て平らげると、独特の陶酔感を味わうことができる。そして必ず翌日には腹を壊す。
どくしょ【読書】
読書の良さとは、多様な価値観を取り込めることにある。私たちは生きていると、家庭や学校、職場といった人間関係だけが「世界のすべて」であり、「絶対のルール」だと思い込んでしまいがちだ。特に、ニートは「働いていない人は終わり」という世間特有の価値観に苦しめられるのではないだろうか。もちろん、そうした価値観を完全に無視してよいわけではない。ただ、それが宇宙の真理のように普遍的で絶対的なものではないことも確かである。本は開くたびに自分を新しい視点へと連れ出してくれる。
なべ【鍋】
ニートの基本料理の1つ。冬は専ら鍋である。肉や野菜、豆腐、きのこなど、とりあえずブッこんで食べておけば、栄養補給はオールオーケーだ。味付けや〆のバリエーションで飽きが来ないのも嬉しいポイントである。
なまふるーつ【生フルーツ】
なんの根拠もエビデンスもない個人的な体感であるが、人間は定期的に生フルーツを食べたほうがよい。果汁100%ジュースや果物の缶詰、あるいはフルーツと同量のビタミンが含まれるサプリメントではダメである。生フルーツを食べることそのものに生命を潤す特殊な効能があるのだ。ニートには少々高い出費であるが生フルーツは定期的に食べよう。オススメは柑橘類だ。オレンジやグレープフルーツをくし切りにしてかぶりつくべし。
ねっとうしゃわー【熱湯シャワー】
冬場の朝のルーティン。火傷しそうだが火傷しない程度のあっついシャワーを頭から浴びる。具体的には43℃ぐらい。冬は寒くて気分がふさぎ込みなので、物理的に肉体に熱エネルギーを与えるとよい。
ばーなー【バーナー】
炙るだけで香ばしさを料理にエンチャントする調理器具。べちゃっとした炒め物も半額のパック寿司もこれで炙るだけで、本格派な味わいになる。本体2000円・ボンベ350円で価格もお手頃だ。金はないがおいしいものが食べたいグルメニートには必須のアイテムである。
ふぁみれす【ファミレス】
平日のファミレスに行って本をだらだら読むのもよくある行動パターンの1つだ。昼過ぎに入店して、ドリンクバーと山盛りポテトで数時間粘るが、夕飯のピークタイム前には退店するというのが個人的な美学である。一番好きなファミレスはジョナサン。
ぺぺろんちーの【ペペロンチーノ】
ニートの基本料理の1つ。もはや乳化とかどうでもいいという境地に達してきた。シンプルに茹でたパスタ麺に、にんにくチューブ、一味唐辛子、オリーブオイルをぶっかけて喰らえばいいのだ。
ぼーどげーむありーな【ボードゲームアリーナ】
ネット上で無料でボードゲームができるサイト。ニートたちの娯楽場。実はこのニートマガジンは、たかはらさんと仲さんと私でボードゲームアリーナで遊んでいたときに、企画されたものである。
まーじゃん【麻雀】
偶然と必然が交錯する悪魔的ゲーム。まるで人生を体現するかのようなスリリングな遊び心地で、ニートたちを魅了する。ちなみに、ニート界隈の麻雀レベルは高く、ネット麻雀で上位ランカーのニートも珍しくない。
れいすいしゃわー【冷水シャワー】
夏場の朝のルーティン。頭や体を洗う時は普通のお湯だが、最後に全身を冷水で締める。簡易的なととのいを得られる。
れっくすいんかわさき【レックスイン川崎】
実家ニート時代、私が最もよく通っていたサウナ施設である。現在は値上げされてしまったが、当時はサウナブーム前で、平日3時間1000円(+500円で当日中なら無制限)で滞在できた。良質なサウナ・水風呂・外気浴エリアがありながらも、そこまで知名度は高くなく、大浴場や休憩スペースも空いていたため、個人的なオアシスだった。食堂でチキン南蛮定食(ごはん大盛り無料)を食べた後、だらだらと漫画を読むのが至福の時間であった。ちなみに、サウナレビューサイト「サウナイキタイ」に「内風呂と露天風呂が両方あつ湯なので、露天風呂の方はぬる湯にしてほしい」と私が書きまくったところ、レックスインは露天風呂をぬる湯にしてくれた。現在でもぬる湯は継続しているはずである。その節はありがとうございました。この原稿を書き終えたら、久しぶりにレックスインに行くのもいいかもしれない。

